モンドとコダイと楽園のありか

 

 ※このページには「花と太陽と雨と」「シルバー事件」のネタバレと妄想とがふんだんに含まれていますξ´▼ω▼ξ
 
 「花と太陽と雨と」はシルバー事件の続編という位置づけにある作品だが、今作で明かされる謎は「シルバー事件」からのプレイヤーを更に混乱させるほとほと困ったものばかりである。
 今回は、
 一、モンドスミオとコダイスミオの関係
 二、ロスパス島とは結局何だったか

という、本作の根幹をなす謎の考察を(ξ´▼ω▼ξほとんど妄想です)主軸として進めていく。

 
 結論から話すと、筆者は「モンド≠コダイ」派である。まったくの別人ではなく、限りなく近い存在ではあるものの、両者は同一でははない、という考え。
 エピローグでのクサビの発言、「大人しく留置所にいればいいのによ」、そしてその後に現れる一文「モンドスミオの一日が終わり、コダイスミオの一日が始まる」という文面から、プレイヤーはモンドスミオは「シルバー事件」でクサビに逮捕されたコダイスミオであると気付き、大きな衝撃を受ける…のだが、ここでモンド=コダイをあっさりと受け入れられるかといえば、そうはいかない。むしろシルバー事件をプレイしたからこそ、このモンド=コダイの図式はそうやすやすと呑み込めない、意地悪な仕様になっている。
 
 シルバー事件からのプレイヤーはすでにコダイスミオの出自を 彼の過去こそが「パレード」でのあの衝撃的な 彼の出身はカントウの山村ミクモ村である。しかし、「島の記憶を知る」という老女リッツによれば、モンドはロスパス島の出身であり、なおかつシェルターで育った「イレブンキッズ」のひとりであると示唆されている。これが最初の矛盾となっている。
 モンドがロスパス島のシェルターの出身であるという前提を崩してしまうと、サンダンスが目的としたモンドーサンダンス間の「島の記憶」の引き継ぎにいろいろな無理が生じてくる。作品全体のレベルで大きな齟齬をきたすことになる。また、ジーパラ須田氏インタビューによれば、モンドがロスパス出身の「イレブンキッズ」であることは確定しており、やはりモンドスミオの過去を揺るがすことはむずかしい。 
 
 ではモンドスミオは何者であるか?という疑問を持った時、はずせないのはサンダンスの存在である。空港でのラストジャックインで、サンダンスは「今までモンドとして日々を過ごしてきたのはすべて自分(サンダンス)のクローンである」と明かす。そしてサンダンスの後ろには16人のモンドが勢ぞろいするというかなりシュールな絵面が展開されるのだが、ここで明らかになるのはつまり、「R00とR18のモンドスミオ以外はサンダンスが擬態したモンドスミオ」であるという事実だ。
 サンダンスの一族は先天的に「自らの別個体(クローン)に記憶・意識を引き継がせることが可能」かつ「別の人間に記憶、意識ごと変身する」というトンデモ能力があるらしく、一日交代で彼らはモンドに擬態し、失われた島の記憶をモンドスミオに引き継がせるべく、そしてやがてはモンドを介して『最後の種』であるステップに引き継がせるために島の中を走り回っていたのだった。(モンド復活のシーンを見ると『交代』の経緯が少しわかりやすくなるかもしれません)
 「我々は特有の遺伝子をもっている。そしてキミだけが別の種だ」 「キミが経験した16日間は別の肉体の記憶だ。そしてキミだけが生き残る」とはサンダンスによる説明である。 イメージ的には西遊記の孫悟空が髪の毛から作り出す分身のようなものだろうか。
 
 再度ジーパラの須田氏インタビューを引用すると、モンドは「まっさらな白紙の人間」であるという。ここでひとつの仮説を立てたい。すなわち、モンドはコダイのクローンであり、R00の時点ではじめて目覚めた(この世に生を受けたにひとしい)個体ではないか?
 正確には「コダイのクローンがモンド」ではなく、「モンドの素地にコダイが選ばれた」という考えに近い。レミー編で訪れたシェルターには、人間兵器に改造されたサンダンススペアが大量に眠っていた。作中のステップも彼が擬態した姿であり、R02からR18までのモンドもおそらくこのスペアから選りすぐられた「彼」である。  
 モンドがステップやレミ―と同じくロスパスのシェルターの出身ながら「別の種」というのは、彼が何らかの特異点、イレギュラーであることを示しているように聞こえる。サンダンスと同じ種を持つ最後のひとり、ステップに島の記憶を引き継がせるメッセンジャーとしての役割を担わされたということも加味すると、やはりモンドはほかのロスパスシェルターの人間とは違う、特殊なケースではないだろうか。

 R00とR18に登場するモンドはあのシェルターでいままで眠っていた「モンドスミオ」であり、たとえばサーチャーとしての記憶や、ギグスやら消火器やらの話はあらかじめ刷り込まれた「情報」である。(誰が何の目的でこんなことをしたのか、に関しての考察は後述)
 これならモンド=コダイという提示を受けたときに(わたしが)おぼえた違和感のひとつ、「音」の問題も解決する。コダイスミオは幼いころに聴力を失っているが、作中、モンドスミオは夢うつつの状態でも鳴り響く電話の音が聞き取れ、コダイスミオのように特殊な機械を介さずして電話での会話が可能であった。オリジナルモンドであるR18でも彼は電話で会話をしていたので、モンドスミオのほうは正常な聴覚であるという可能性は高い。
 コダイが聴覚を失ったのは後天的な理由からである。モンドがR00ではじめて産声をあげた存在なら、聴覚も正常でしかるべきだ。

 じゃあコダイスミオって誰?という話が今度は出てくるが、彼は文字通りモンドのベース、下地である。そもそも同じ「スミオ」という名前を冠しながら、モンドスミオとコダイスミオのビジュアルはなんだか微妙に似ていない。ふたりが同一人物だよと言われても思わず首をかしげてしまう理由その二だ。 彼は聴覚に障害を持ちながらも、長年の復讐心を弛ませることなく、実に巧妙かつ大胆に、そして完璧にユキムラへの復讐を成し遂げた。「シルバー事件」プレイ当時、筆者はなぜあれだけの犯罪を犯したスミオが「即時処分」ではなく「逮捕」になったかが不思議で仕方がなかったが、不利なハンディを持ちながらそれを高等な読唇術等で隠し通し、捜査官にまで上り詰めたスミオは、処分してしまうよりも高い犯罪力を持つサンプルとして、犯罪の類型データをとるために生かしておいた方が良いと判断されたのかもしれない。
 
 モンドとコダイ、両者の関係を考えるにあたって、もう一度たとえ話をさせていただきたい。「とある魔術の禁書目録」というライトノベル(アニメ)がある。その作品に登場する「御坂美琴」という登場人物にまつわる話を、コダイとモンドの両者に適用させる。
 知っている人ならこれまでの話の流れでピンときたかもしれないが、「ミサカネットワーク」だ。かいつまんで説明すると、「御坂美琴」は作中でも有能な超能力者(電気を操る能力者)であり、その優秀さに目をつけたある組織が彼女の体細胞から数万体にもおよぶクローンを作り出した。そのクローンたちは「妹(ミサカシスターズ)」と呼ばれ、ミサカネットワークなる独自の脳波リンクネットワークを有しているのだ。
 
 『「妹達」は電気操作能力や常に放出している電波、全個体の脳波が同一である事を利用し、脳波を電気信号として発信して意識や思考を共有している。リアルタイム通信のように情報を送受信して組織行動をとり、記憶のバックアップをとって死後や記憶喪失後であっても記憶を永続させたり、並列コンピュータのように並列演算するなども可能(wikipedeiaより)』

 「ミサカネットワーク」ほど強靭かつ精緻でないにしろ、サンダンス同士に記憶・意識の共有能力があったようにモンドスミオとコダイスミオのあいだにもこのようなリンク機能があるのではないだろうか。実際、モンドの言動の中にはときおりコダイを思わせるものがある。
 オトワヤセイジとの会話での「好きな女にも会えやしない」発言は「シルバー事件」をプレイした人間ならシモヒラアヤメかあるいはユキムラリルをまず思い出すだろうし、トキオへの「頑張れ ブンヤ」という呼びかけも(その後のトキオの反応も含め)何かしらモンドーコダイ間のつながりを感じさせる。わけても序盤での、「たとえば(キャサリンの名前が)テツゴロウだったら、俺は仕事をしなくなるだろう?」が顕著だ。
 
 モンドスミオは「白紙のようにまっさらな状態」でありながら記憶や思考のどこかがコダイスミオと微弱にリンクしている。
 エピローグでの飛行機で、彼は完全にコダイと同期を果たしたのかもしれない。だが、モンドの持つ「まっさらさ」や、お人よしすぎると周囲に評されるほどに人と関わりあっていく気質といったものは、「シルバー事件」のコダイスミオからは感じられなかったものだ。それはコダイが長く世俗に生きた身だからであり、過去の過酷な経験、胸に秘めた復讐心を固く守ってきたなど、「生の積み重ね」があった人間だからではないだろうか。好いた女性への過剰な信仰心、執着心など、幼少のあわいからコダイスミオの内面はすでに完成されたものだったが、あの状態のまま生がはじまり、独自の子供時代など与えられもしなかったモンドには当然それができない。だからこそ、人と人との関わりあいによってまっさらな彼は変化していく。「花と太陽と雨と」はモンドスミオ育成日記だったんだよ! ξ´▼ω▼ξな、なんだってー!?

 
 さて、ではモンドに「探し屋」としての記憶を植え付けたり、島の中を走り回らせたりするよう(走り回っていたのはおもにサンダンスモンドですが)に仕向けたのは?
 これも結論から言うと、エド&ステファンの二人組だ。
 エドはエピローグで「世界有数の秘密結社組織・先進国首脳機関『エルボー』の最高執行責任者」というなんだかよくわからないがとにかくすごそうな人物であったと明かされる。簡単に言えば、リゾートの皮をかぶっていながらその実、銀の目を持つハイエナの養殖プラントであったロスパス島の管理者である。
 シェルターを作り、そこでイレブンキッズたちを育てた目的も、おそらく24区での三角塔シェルターとあまり変わりないと思われる。銀の目の適応者をつくりだすためだ。
 ステファンは須田氏いわく「明かされなかったが物語の謎に関わる人物」である。物語の要所要所で現れては電波発言をかます困った科学者センセイのイメージが強いが、彼の言動にはモンドを先へ先へと導くような暗示めいたものも散見され、時としてモンドの過ごしている日々を「観測」しているかのような物言いをする。(行き詰っているモンドに対しまさしくズバリ「フラグを立ててあげよう」との発言をしたこともありましたね)

 ステファンの専門分野はシステム工学、 装置や工場、それに自律した知の集合体、学習システムなどの研究を主とする学問だ。空港でさんざんプレイヤーを苛立たせた人間爆弾「ファンタジスタ」も彼の自作である。
 「工場」「装置」「自律した知の集合体」このキーワードから、ひとつ仮説を立てたい。エドがロスパス島全土の管理者だとするなら、ステファンはロスパスシェルターおよび、ハイエナを用いた銀の目養殖プラントの科学主任のような役割を担っていたのではないか?
 R06で、ステファンはエドのことを「あいつはなかなかのタヌキだよ」とモンドに漏らしている。実際ステファンの言う通り、エドはただのホテルマンではなかった。ヤヨイの一件に対してさえ、ステファンはエドらしき人物と結託して行ったゲームであることを匂わせている。エドはあくまでステファンをホテルの客のひとりとして扱っているが、エドとステファンのあいだに浅からぬ繋がりを想像することはたやすい。
 
 ロスパスシェルターのストックサンダンスとファンタジスタ、共通するのは「人間爆弾」という点である。非常に精密かつ異能というべき神秘の力を持ったサンダンスに「インスピレーション」を感じたステファンがロスパスシェルターの科学技術主任の役に名乗り出る…というような胸躍るバックストーリーなんかも妄想可能である。
 そういうわけで、前述した「モンドにコダイの思考ベースを植え付けたのは?」という問題への解答はずばりステファン・シャルボニエ。彼の科学的向上心が目指すところは「完璧なシステム」である。サンダンスたちが持つ、並列コンピューターのごとく記憶や意識を別個体で共有しうる能力は、まさしくシステム工学が理想とする体系化された集合知の完成形だ。
 ステファンは自らの技術の粋を尽くして、目覚めたばかりのモンドスミオにサーチャーとしての記憶や情報、そしてコダイスミオの思考ベースと記憶、リンク能力を与えた。R00での飛行機爆発ののち、モンドスミオ(オリジナル)の肉体はモンドスミオ(ストックサンダンス)に取って代わったわけだが、意識と思考はオリジナルのまま、肉体だけがストックサンダンスたちの擬態モンドに変わっただけの話である。ストックサンダンスの経験した出来事・事件・それによって擬態モンドの抱く思考や感情や情動はすべてオリジナルモンドにも共有され、引き継がれたことになる。
  
 モンド(たち)の過ごした18日間はいわば「モンドスミオ」の大掛かりな作動テストのようなものだったとも言える。エルボー最高執行責任者としてのエドの計略、自らの技術の限界を試したいステファンの科学的好奇心、現住民族として島の記憶をどうしても残したいサンダンスの願望は奇妙に噛み合った。モンドスミオは三者の計略と好奇心と願望を仮託されたうえで、島中を走り回ったのである。

 ・その楽園、届くこと能わず

 光輝漲る海と眩しい太陽、青い空に白い砂浜…ロスパス島は類型的な「楽園」の要素が満載だが、一枚層を隔てたところでは、虐殺の歴史と冷たいコンクリート作りのプラントが息づいている。
 シルバー事件の舞台、24区もそうだった。「南の楽園」を「管理された理想的都市」に置き換えればいいだけの話である。そして24区でもロスパス島でも、銀の目をめぐる争いが水面下でくりひろげられているようだ。

 ショウタロウの父、カイダイザブロウは24区TRO/CCO派の連合主席であり、エドに負けず劣らずの大物である。そしてサンダンスも、正体はさておき名義上では24区FSO派党首ということになっている。つまりロスパス島には、24区三大派閥のトップが揃い踏みしているというわけだ。ロスパス島も結局のところ、24区の縮図にすぎない。
 ダイザブロウがなぜロスパス島を訪れているのか、彼の身の上とロスパス島の正体が知れた以上単なるリゾートであるとはどうにも考えにくい。24区側としては喉から手が出るほど欲しいであろう銀の目養殖プラントの利権を狙ってきた、というのが最も納得できそうな説ではあるが…。

 美しい理想の「楽園」と見せかけて実はそうではありませんでした、というのは須田ゲーのお得意の設定である。ノーモアヒーローズの舞台であるサンタデストロイは一見粗野で能天気な西海岸の街だが、その歴史には米軍の軍事実験やら、怪しげな都市伝説の影が随所でちらついている。
 モンドはエピローグで「リアルな楽園などない、楽園は世界から離れる場所」と語っている。DS版FSRのサブタイトルは「終わらない楽園」であり、説明書で須田氏は「これからもモンドは走り続けます」という リアルの世界に縛られ続けることを承知でなお、リアルから離れる「楽園」を探して走り続けることにこそ、意味があるのかもしれない。


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